北陸大学教職員組合ニュース256(2007.10.12発行)



チャングムファンも聞いてびっくり

@論ずるまでもない「不当解雇」

 2007810日に金沢地裁で出された『決定』は、2教授に対する解雇に関して、明快に「権利の濫用として無効」である、と結論付けています。

「不当労働行為に該当するか否かを判断するまでもなく」(16頁)、 「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはでき」(同)ないと断じ、法人に対して「解雇回避努力を尽くすべきであった」(同)と述べています。



A選択科目で残せる

経営側は、2教授が「専らドイツ語を教える『ドイツ語教員』として雇用されたことは否定のしようがない」(学長『陳述書』平19.6.4)と主張してきました。そして「ドイツ語科目廃止によって・・・雇用契約の目的を終了するに至った」(同)と、解雇の原因を「ドイツ語科目の廃止」に求めています。

これに対して、金沢地裁は、まず、「直ちにドイツ語科目を廃止しなければならない事情」が「認められない」(『決定』13頁)と判断し、例えば「選択科目として残すなどの措置は可能であった」(同14頁)と述べています。



B「職種限定」論(ドイツ語のみの教員として雇用)の破綻

次ぎに、地裁決定は、法人の主張する「2教授がドイツ語のみの専任教員」であるとの論を否定しています。すなわち、2教授は「ドイツ語以外の講義も担当してきたことが認められる」として、金沢地裁は赴任以来の担当科目の一覧表を添付しています。具体的な担当実績は以下の通りです。

両教授のドイツ語以外の担当実績

田村教授の場合

ライヒェルト教授の場合

・国際政治史(2年間)
・地域研究U(欧州、7年間)

・総合科目(地球時代の人間、11年間)

・ゼミナールT・U(各10年間)

・演習T(1年間),  ・演習U(3年間)

・留学生講座(日本語講座、国際政治史各1回)

・特別演習(2年間)

・卒業研究(5年間)

・ゼミナール(10年間)

こうして法人の「ドイツ語への職種限定」論は、担当実績で破綻しました。



C解雇回避努力をせよ

 そもそもドイツ語科目を廃止することの不当性をAで述べた金沢地裁は、仮に廃止せざるを得ない場合には、「ドイツ語科目以外に担当できる科目がないかを検討し」(『決定』14頁)、「担当可能性について十分協議をした上」(同15頁)で、「雇用が確保されるような措置を講じるべきであった」(同)と判断しています。しかし実態は、担当実績があるのに、「雇用を確保する」ための「代償措置も講じておらず、協議もしていない」(同16頁)として、解雇の無効性を理路整然と論じています。



D現有スタッフを「考えず」 

 上記の裁判所の判断は、経営側の以下の主張への反論になっています。

経営側は、外国語学部と法学部を未来創造学部に改編するとき、両学部の当時の現有スタッフに無関係に新学部のカリキュラムを作った、と証言しています。こんなことはあり得ません。学長は次のように述べています。

学長「今、その教員がいるかどうかなどは一切考えなかった」

031018日、団交での発言『組合ニュース』199)

学長「今いる人のことを考えず・・・カリキュラムをつくった」

06926日、団交での発言『組合ニュース』238号)











 真実は、「組合嫌悪の意思」(県労働委員会『命令』07.4.10)に基づいて、組合員であるか否かを「考えて」、未来創造学部と教育能力開発センターに分け、組合員の多くをセンターに分属させたことは、北陸大学の教職員ならば誰でも知っていることです。

私たちは、新しい仕事を始めるとき、足りないところはどのように補充するかを考えながら、まず既存の素材と現有スタッフをどのように活用するかという視点で取り組むでしょう。しかし、学長の言説によれば、大工さんは、新しい家を造るとき、「今ある素材、スタッフのことを考えず・・・家を造った」と言うのです。恐らく湯水のように予算が有り余っているのでしょう。



Eドラマ『チャングムの誓い』の魅力:既存食材の尊重と活用

 「今ある食材のことを考えず」、「今、その食材があるかどうかなどは一切考え」ず、新しい料理を作るという人がいれば、是非お目にかかりたいものです。そのような料理人は、この世に身近にその「食材があるかどうかは一切考え」ず、本人のみに突然ひらめいた、「ぺぺぺ」、「ジュゲム」などという素材で新料理を作ろうとしているようなものです。韓国ドラマ『チャングムの誓い』の魅力の一つは、医食同源、薬食同源を教えているだけでなく、既存の食材からいかにしておいしく、健康に良い新料理を作るか、女官たちの努力と協働の多様性にもあります。既存の食材に基づけば、まず値段がわかり、全体の予算総額が算定出来、次ぎに味も色も栄養価も消化度も分かります。「個々の食材を浮かべ」ずに、「ペペペ」から作れる料理など聞いたことはありません。



F「今いる人を考えず」

しかし、先の学長証言を信じれば、未来創造学部の科目は、このように作られたそうです。完成年度4年にして既に未来社会創造学科、未来文化創造学科という学科名を廃止しなくてはならなくなった理由の一つは、こうして「ペペペ」の発想から作られたからであると思わざるをえません。

 これは、現在、教員から取りあげられた科目を引き受け、その分多大な負担を背負っている未来創造学部の教員に対しても失礼です。「先生の講義は大切です、是非、学生にその点を講義して下さい」と、「今いる人」を基盤に考えられたのではなく、個々の先生の顔を浮かべず、恐らく思いつきで、くどいようですが「ペペペ」の次元で選ばれた人であるからです。実に失礼です。

学科名を廃止しなくてはならなくなっただけではありません。スタッフについても「今いる人」ではなく、どこか遠いところにいるかもしれないし、いなかもしれない人を想定し、科目を作ったというのですから、当時の先生方は、無視され、バカにされた、ということです。辞めたくなるのは当然でしょう。

G半分以上の教員が去る大学ーわずか3年間で

 実際辞めていった教員の数が実に多いことがこの「ペペペ」説を補強しています。03(平15)年912日、経営側は初めて未来創造学部(教員20人)とセンター(同34人)へ分属される教員の名簿を公表しました。この20人の教員のうち、学部ができてから3年後の2007331日までに、北陸大学を退職した教員が、定年退職者1名を除いて、なんと11人もでています。元来、学部の完成の4年間は、特段の事情がない限り、教員の移動はないのが通例です。完成年度内に、半分以上(55%)の教員が去ってしまう大学とは異常です。それもそのはず、先の経営側の証言に従えば、教育研究に真摯に取り組んでいても、大切にされず、顔を浮かべられずにカリキュラムを作られたのですから、「バカにするな」と言いたくもなることでしょう。



H公的機関の命令:教員の有効活用

薬学部3人の教員の、6年制科目担当外しに関して県労働委員会も、当然の

ことながら次ぎのように判断しています。

「専任教員の増加が必要」ならば、「まず、既存の4年制薬学部担当教員を

有効に活用することが最優先されると考えられる」(県労委『命令』26)









I金沢地裁『決定』の意義

地裁の仮処分『決定』は、「ペペペ」の論理で人を解雇することはできないと判断しました。今回の『決定』は、次のような意義を持っています。第一は、経営側が担当科目を勝手になくし、それによる社会通念に反した「解雇は無効」(『決定』16頁)だという点です。第二は、「担当科目がなくなっても解雇されていない教員が複数存在する」(同9頁)として、人選の不合理性をも指摘した私たちの主張に追い風となっています。