北陸大学教職員組合ニュース275(2008.11.4発行)


教員の薬局配転の不条理

 20081010日に開かれた教員懇談会で、北陸大学が付属調剤薬局(「北陸大学付属太陽が丘ほがらか薬局」)を太陽が丘に開設し、そこで働く薬剤師を教員の中から選んで充てるという理事会の方針が伝えられた。

 例によって、その議題は事前に通知されておらず、しかも12月から開局することが既に決定していたのである。「懇談会」という、恰も自由な意見の交換を思わせる名称で教員を招集し、一方的な理事会の方針の通達を覆い隠すようなやり方は理事会のいつもの手で、今回も腹立たしさを抱いた教員が多かったことを確認しておくが、勿論、ここで取り上げるのはその中身である。

 先ず大屋敷学長は、「『研修の為に』薬局で働いて貰う」と述べたが、河島理事は、「6年制教育を充実させるため」と言いつつも、「研修の為ではない」ことを数度に亘って確言し、「3ヶ月や4ヶ月の」相当期間、教員としてではなく、薬剤師である人が行って薬剤師の業務をやって頂くと述べた。また、「国試や、6年制教育の課題が重要な中で、教員の負担が増えるようなこのようなこと(薬局開設・教員充当)を何故考えるのか、腹立たしい」という意見に対して、河島理事は、来年度は50%の定員割れが懸念される。地域貢献によって大学のイメージを向上させる、と答えた。

 研修と言ってはこれを否定し、6年制教育を充実させると言っては地域貢献だという。さらには、専任の薬剤師が確保できないから教員を配置すると言う一方で、処方箋が60枚に増えたら募集するとも言った。この矛盾に満ちた説明には、薬局配置によって教員の身分が変更されることへの反発を小さくしたいという子供騙しのような誤魔化しの意図が感じられるが、実際、身分の実態を曖昧にしながら主に「出向」という言葉が使われた。

 一般に、「出向」は別の企業に移籍する場合を言う。これに対して同一事業体内の異動は「配置転換」などと言われる。今回の教員の薬局配置は、薬局がどのような組織に属するのかに依るが、「北陸大学付属」が名ばかりでなければ「配置転換」の範疇に入ると想像される。配置転換に関する使用者側の裁量権は、当然その濫用は認められず、労働の質、量、場所、態様などについての労働者側との合意によって可能となるものであるとされている。職種・勤務場所は重要な労働契約の要素であるから、一方的にこれらを変更する配転命令はできない訳である。勿論、出向についても労働者側との合意が必要である。いずれにしても強引な配転はできない。

 嘗て理事会は、教員の事務局配転を提案してきたことがある。組合はこの提案を跳ね返し、確認書を取り交わした。(組合ニュース149号) 今回の提案に対しても教員は誰一人として配転に賛同する人はいない筈で、懇談会で多数出された質問・意見がそれを物語っている。具体的に指摘されたように、誰もが教員として、教育・研究を志して就いた仕事であるからである。組合は教員の身分を守る為にこの配転に対して拒否の姿勢で臨みたい。配転を命じられた場合、個々には拒否することが困難である。大学の方針に異議を感じる人は、この際是非、組合に加入していただき、共に闘っていただきたい。


理事会が今しなければならないこと

 河島理事が来年度の定員割れに言及したとき、応募の現状をどう思っているのかと、恰も教員の認識不足を責めるかのような物言いに感じられた。冗談ではない。教員は自らのこととして最も心配している。このような事態を招いたのは、あなた方理事会ではなかったか。

 国試合格率の最下位に甘んじてきた某大学は、不祥事によるグループ総長の逮捕の後、改革が進んでいるように見受けられる。500万円超と言われた年間学費を一挙に170万円(約1/3)に下げたのである。この額は薬学部の最安クラスである。イメージ改革の強いメッセージが感じられる。他の薬科系大学でも授業料値下げが行われている。本学でも学費を下げろという意見が教員から出された。しかし本学では、ジリ貧を悲観して打った手がドカ貧を招いた。他大学に見本があったにもかかわらずの無謀な定員増は、国試合格率の低下を招く理事会の悪手であった。全国全高校を指定校にするという実質無試験化は、受験生が北陸大学の将来に不信を抱く自滅の一手であった。「秘伝のタレ」という空虚なキャッチフレーズもダメ押しのようにイメージダウンを誘った。そして失策に対して、理事の誰ひとりとして責任を取ろうとしないばかりか、教員に責任を押しつけようとしている。このままでは何れ国試最下位の座を本学が取って代わることを憂える。

 本学の起死回生のためには、絶後の、覚悟を込めた「北陸大学の再生」のメッセージを受験生や世間に伝える必要がある。本学には学費を1/3に下げるというような刮目的な切り札はない。本学が可能なのは、組合ニュース271号で投稿によって指摘されたように、全国全高校指定校化を一刻も早く撤回して正常な入試に戻し、経営陣を刷新して、過去との決別と真摯な運営をアピールすることである。信頼の回復以外に本学の明日への道はあるか。

 大学の事業として、採算を度外視しても、地域貢献は悪いことではない。しかし、既設のほがらか薬局が扱う処方箋の枚数は実に少なく、1ヶ月に40枚程度と言われている。この実態を顧みることなく新たに赤字前提の調剤薬局を開設するというのは、たとえ地域貢献であっても、負担が大きすぎ、得られるものが少なすぎる。大学の将来に展望をもたらさない。学力、国試、入学生確保が危機的状況にあり、教職員が土日にも出勤して全力で取り組んでいる現状で、一体、経営者はどんな感覚をしているのかと、呆れるばかりである。そういえば、V字回復前の日産自動車の首脳陣は、社内の意見に耳を貸さないばかりか、自ら何をすれば良いのか、判断できない状態になっていたそうである。カルロス・ゴーンを受け入れる判断以外は。


裏面に上記教員「懇談会」における説明および質問を要約して掲載します。



教職員組合忘年会(創立14周年記念大会を兼ねて)のお知らせ

 下記のように計画しています。ご出欠は追ってお尋ねします。多数のご参加をお待ちしています。

   日時:20081220日(土)18:30から

   場所:KKRホテル金沢(旧会館加賀)





20081010日(金)(教員の薬局出向についての)教員懇談会の発言要旨

河島理事:「北陸大学附属太陽が丘ほがらか薬局」を121日に開局する。大学の収益事業とはしない。地域貢献が目的である。薬学部の「ほがらか薬局」の処方箋数は40枚/月で、2名の薬剤師が勤務している。その1名を太陽が丘ほがらか薬局の管理薬剤師とし、もう1名は薬学部教員に薬剤師として手伝いをしてもらう。

大屋敷学長:病院での研修と同様に薬局での「研修」というかたちで先生方に勉強していただく。

河島:薬剤師の教員には「保険薬剤師」として登録した上で薬局に出向していただく。研修しながら、薬剤師としての業務を執行していただく。人選は学部長に推薦していただく。期間は、3ヶ月または4ヶ月を考えている。

A:人選は、学長と河島理事で決めてほしい。

B:開設に合わせて必ず大学職員が1人行くことになるのか。

河島:処方箋数は1日20枚程度の見込みだが、2人居るのが好ましい。

C:薬学部「ほがらか薬局」で処方箋が月40枚/月なら、太陽が丘へ移動してやれないのか。

河島:薬学部には正規の薬局が必要で、模擬薬局にすることは拙い。正規の薬局をもつ大学は全国でも極めて少ないのだ。薬剤師教育を前向きに考えてほしい。

D:事前学習の教員確保がガタガタだから、その辺の教育を前向きに考えてほしい。

E:処方箋数が20枚ぐらいで1人の薬剤師のペイがされるが、最低2人要る。本学の教員が長期実習に関わることはできないので、(この薬局は)教育には使えない。1薬局で実習する学生は2人で、年間3回の実習でも受け入れ学生は6名のみだ。

河島:薬剤師として薬局に行き保険薬剤師になっていただく。教員として行くのではない。薬剤師である人が行って薬剤師の業務をやる。

F:薬局は土曜も開くから、教員が土曜出勤を命ぜられるのか?

河島:当然。

G:調剤薬局の現場は、そう簡単ではない。もう少し別の手段を考えてほしい。ここにいる先生は薬剤師として働くことを希望して採用されている訳ではない。保険薬剤師として登録することは責任問題が発生するということ。もし過誤があれば訴訟になる可能性があり、大学はそれに対応する用意があるのか?研修が目的なのか?教員では研修程度しかできず、足手まといだ。研修ならばそのための人員も確保しなければ成り立たない。

河島:(訴訟対応は)考えている。研修はあくまでも研修であって、本物ではない。薬剤師を求人しても来ない。医学部とか看護大学をみると、教員は実務経験が必ずある。6年生薬学部においても現場を知るのは大事なことだ。

H:この大学は勇気ある縮小・撤退がないようだ。ほがらか薬局を太陽が丘に移せば、空いたスペースで事前学習もでき、教育的効果が高い。再考して欲しい。

河島:事前学習は薬局があってもできる。

I:来年はOSCEが控えているが、そのトライアルでは経費がカットばかり。薬局開設のお金があるなら、教育に手当てし、学内の教育を優先してほしい。

河島:薬局開設にお金は殆どかからない。

J:薬局の業務は、研修か、お手伝いか。出向なら、ここでの業務をもって出向するのか。業務のない者が行くのか。空き時間を見つけて研究しているが、それをも取り上げるのか。

河島:研修とは言っていない。薬剤師としての業務のための出向だ。研修よりもレベルの高い出向として、薬剤師業務をするのだ。6年制薬学部をやっていく上で、病院・薬局の経験を活かして学生へ伝えるのだ。

K:教育者として研修を受けるなら理解できる。しかし薬剤師として業務せよ、それを学生にフィードバックせよ、つまり、薬剤師であり、教師であり、研究者であり、これだけ沢山をやれと言うのか。

河島:当然だ。

L:薬剤師としてこの大学に雇われたとは思っていない。薬剤師免許を活かして業務しなければ雇わない、とは言われていない。

河島:そうではあるが、これからの教育では、薬局業務ができるのが望ましい。

M:常に処方箋がきている所でなければ研修にならない。教員を薬剤師として使い捨てるとしか見えてこない。募集もかけずに、薬剤師が来ないなどと言うのはおかしい。積極的に薬剤師を探すことに全力を尽くすべきだ。

N:営業が月〜土ならば、40時間/週を越える。出向者が1人だけになることもあり、問題だ。

O:薬剤師募集の意志はあるのか。

河島:求めても、(応募者が)いないことが分かっているから、今、かけてはいない。「太陽が丘ほがらか薬局」が(処方箋数が)4060枚となってくれば、募集する。現状では1人いればいいことだが、法的規制とは関係なく、研修の延長で業務をしていただければ良い。薬剤師としての業務に給料は払わない、教員としての今の給与の中でやっていただく。

P:研修願いを出すのか。

河島:形式的にはそうなる。

Q:先日の事前学習担当教員の件では、従来の各系の実習担当者を減らして、担当教員を捻出した。それは、実務実習担当教員の補充・採用をしないとの「上の意志」を前提として、教員が止むを得ない現実対応を強いられた結果だ。教育に十分な対応ができない中で、更に今回の薬局への出向業務を教員に割り当てることは「上の方針」がずれているのではないか。地域貢献よりも、教育はもっと差し迫っているのではないか。

河島:太陽が丘の地域の方々の要望があって大学が対応している。大学が薬局を持っていることは社会的な評価になる。今年の学生募集の状況を先生方は知っているのか。指定校推薦が115名のところ、現時点で40名ほどだ。今後一般入試1期、2期までやっても、306名の半分、150名確保するかどうかの厳しい状況だ。だから、住民の要望に応えて、他大学がしていない地道な取り組みをすることが重要だ。

大屋敷:6年制薬学部の事前学習を含めて、現在の人数で、教育は十分にできる。

R:学長の話では、うちの教員は数が多すぎる。学生が150に減るならば、一部教員を出向させようか、ということか。

大屋敷:そうではない。しかし、うちの教員数は多い。だからこそ、一人ひとりの学生をみることができるのだ、多いから。

S:薬局薬剤師で、怖いのは調剤過誤だ。経験が少ないと間違いが多い。

河島:過誤は真剣にやるかどうかだ。現場ではピッキングは事務員がやっているが間違いが起きていない。経験が少ない方が間違いが少ない。処方箋が少ないのでゆっくり仕事が出来る。

T:行けと言われたとき、断れるのか。

河島:それは個人のことで、私が決めることではないから、何とも言えない。

U:学部長がそういう人を選ぶことは負担が大きく、出来ないから、是非、河島理事と学長で責任を持ってやっていただきたい。