北陸大学教職員組合ニュース277(2008.11.26発行)



理事会の方針の誤り:無試験入学制度の導入


教育現場軽視の昨今

200892日(火)に薬学部で教授懇談会が開催された。次年度から開講される「実務実習事前学習」(90×122コマ)の担当者と実施場所を捻出する“懇談”であることが出席して初めてわかった。3年前の6年制薬学部スタート時点で必要であることが指摘されていた実務実習担当教員と場所の確保に対して、「実務教員の補充はしない、新たな講義・実習室の予算措置はない」との「上からの方針」に、仕方なく担当者と場所を他実習から絞り出そうというワケである。

1010日(金)に教員“懇談会”が開催された。この時もいつものように事前に議題は知らされなかった。河島理事が、「121日に『北陸大学附属太陽が丘ほがらか薬局』を開局する。薬学部教員をそこに出向させる」との方針を示し、事実上、“懇談”ではなく通達であった。席上、多くの質問、意見、疑念、反発があったのは当然である。現在取り組んでいる学生教育、OSCEトライアルへの予算カット、実務実習事前学習へのまともでない上記の対応など、教育への配慮を欠く経営姿勢にも不満の声があがった。これに対して大屋敷学長は「薬学部の教員の数が多すぎる」と述べた(事実に相違する=組合ニュース276号参照)。また、1114日、第11回教授会冒頭には、学長は「授業充実改善のための学生アンケート」を2回実施するように命令した。意味のない2回実施に反対の意見と、膨大な学生・教員の時間の浪費に配慮する姿勢はなく、トップの意向を頑なに下ろす伝令の役目のみが顕著であった。本学のトップには、学生の教育を強化手当して、教員の努力を支援しようとの姿勢はみえず、寧ろマイナスを来す負担増ばかりが目立つ。

本学はここ数年、薬学部志願者の激減及び薬剤師国試の不振、未来創造学部における日本人志願者減少など、凋落方向へと加速している。これは教員の努力不足の所為であろうか。否、そのようなことでは決してない、そのことは誰もが知っている。大量学生増と無試験入学制度(全国全高校の指定校化)の導入による信用の失墜である。何れも教員の負担が増加するだけで状況の改善を害するばかりの施策である。そして、このまま推移すればどうなるか、誰もが憂えている。

このような運営方針を独善的に決め、「従え」と命令したのは理事会である。結果、定員割れという大学の存亡に関わる事態を招来した。この重大な局面にありながら、理事会は自らの施策を検証することも、改めることも、責任をとることもしていない。それどころか、この間、理事の報酬は増額されているのである。一方で教職員の待遇はこの6年間、1度も改訂されていないばかりか、毎年、毎回、賞与が減額され、元々ワーストクラスだった水準は悲惨な状況に陥っている。多少の不満は学生のためにと自制して、過重負担に耐え献身してきた教職員の生活は貧窮の極みに堕ちつつある。そしてこの数年、理事会は国試不振・定員割れの責任を教職員に押しつけようと画策している。この事態を改善しようとする教職員組合に対して、理事会は、見せしめ的に教員の教育する権利を剥奪し、または、解雇をするという不当労働行為・支配介入、組合員差別を続けている。

本学をこのような事態に陥らせた理事会の責任は免れえない。以下に理事会の致命的失策のひとつ、入試制度について述べ、組合はその正常化を要求する。


無試験入学制度が志願者減少の要因

昨年12月、全教員が集められ、「今後の大学運営方針について」とする説明会が開催された。その冒頭で河島学長(当時。現理事)は、本学の教育のあり方として、偏差値に囚われることなく意欲を持つ学生達をすべて受け入れる方針を示した。「2000年、国家試験がある学部でAO入試は導入できないと言われた時代でしたが、敢えて導入しました。勿論、心配がなかったわけではありませんでしたが、4年後、国家試験の合格率は一般入試で入った学生と変わるところはありませんでした。これを受け、- - - 昨年、指定校推薦の選抜方式を大幅に変更し、全国すべての高校への指定校という方法を取り入れました。」(「With youVOL. 3. 平成1912月)

説明会では、この方針を述べた後、入学志願状況の厳しい現状、教育成果が挙がっていない現状を述べ、「教員は教育成果を挙げよ、『3年後の成果が十分に至らぬ時は、- - - 人件費その他の具体策を実行します』(学校法人北陸大学基本方針『本学の未来に向けて』示達―平成191120日)」と続く。

先ず上記説明会では、AO入試の早期導入、その延長にある全国全高校指定校制度を法人が積極的にすすめた事実を述べている。AO入試導入時の教授会では、多くの教員が懸念、疑念を表明し、積極的な賛同者はほとんどいなかった。安易な導入は一時的な学生集めに堕する危険があり、学力低下を助長する要因になるからである。全高校の指定校制度の導入については、教員への事前の説明は全くなかった。夏休みの高校訪問の現場で、新聞紙上で初めて全指定校制度を知って困惑した教員もいた。導入初年の2007年度の薬学部の定員がようやく充足されたが、それは全高校を指定校とした成果であると理事会は自画自賛して、複数の理事の昇給があった。しかし、この制度の導入は、本学の根幹を揺るがす愚策であった。果たして、翌2008年度の志願者は予想通り激減し、薬学部始まって以来の定員割れとなった(215名/306名)。3年目の今年度は、当然のことながら、更に減少が懸念されている。その現況は1010日の懇談会での思わぬ河島理事発言で告知された:全高校指定校推薦応募は115名募集に対して(この時点で)40名ほど、一般入試を含めても最終的な入学生は定員の半数、150名までいくかどうかだという。この惨状と入試制度は無縁ではない。受験生の立場で、受験生の親の立場で、そして受験指導をする高校教師の立場で、「高校生なら誰でもいいよ」(毎日新聞、2006917日)と、形振り構わず旗を振る大学に、不安なく入学を薦める者、不安なく入学を決意する者はいない。逆に、可能な限り避けるであろう。その結果が志願者激減の大きな要因であろう。


入試と国試対応力

上記「With you」では“AO入試の入学者の国家試験合格率は一般入試の学生と変わらない”と述べているのだが、本学のこの無試験入学制度に関する評価・検証と言えば、これぐらいしか表明されていない。だが、そもそもこの記述が明らかな嘘である。何故なら、200722日の薬学部の教員会(「薬学部志願者減少の原因と対策について」を議題とした)の席上、新聞報道された河島学長(当時)の発言に対して質された際、本人自ら「『AO入試学生の留年率は高く、留年経験後に卒業して受けた国家試験では合格率は同じであった』と新聞記者に説明したが、新聞は、発言の一部しか報道しない」などと釈明しているからである。

6年制薬学部担当排除事件の石川県労働委員会での審理の中で大学側は、「偏差値と国家試験合格率とは関係ない、詰まるところ、教員の教育力の問題だ」と主張し、学力の高い学生を入学させる対策を取るべきだと主張する教員側を非難した(河島陳述書、乙第31号証、p58)。この主張の根拠として、河島氏は当時の最新情報であった2007年度の入試偏差値ランキングと2005年度第90回薬剤師国家試験合格率を提示(乙第73号証)して、偏差値と合格率は無関係と主張した。これに対して組合は、2007年偏差値と2005年合格率とを比較することに意味がないと指摘し、2006年度の薬剤師国家試験の合格率と、その受験生の入学時2002年度の偏差値を提示し、偏差値と合格率には相関があることを論述した(甲第138号証、p10)。なお、この論議の中で、組合は、2002年度で56であった偏差値が、全国全高校指定校化の2007年には51(大学提示)に低下していることも指摘した。現時点でウェブサイトで確認できる本学の偏差値は更に低下している(と言うより、入学無試験化によって偏差値が意味を失っている)。


理事会の責任

理事会の言う「偏差値で人間を評価することはできない」は、ある意味では当然である。だが薬学部入学生には、薬学教育を受ける意志とともに必要な学力と資質が求められるのが当然である。その担保なしに教育成果としての国試合格率を課すことはできない。合格率に直結する国試の得点自体がいわば偏差値なのである。入り口の偏差値を問題にしないのは、上述のような入試制度を導入した理事会の方針の誤りが問われるからだ。出口の偏差値(国試得点・合格率)のみを問題とするのは、教員の教育力を問い、責任転嫁をする為だ。「偏差値に囚われることなく意欲を持つ学生達をすべて受け入れる」に「北陸大学には『秘伝のタレ』があるから」と国試合格の空約束まで加わるならば、外部からは「志願者確保の詐欺行為」と言われても仕方がない。

理事会は自ら導入した入試制度を再検討する気配がない。志願者の減少の原因、学生の質の変化、国試レベルへの到達の困難さを、入試制度と関連付けて検証しようとしない。責任問題が回避できなくなるからだ。代わりに、520余名を入学させた2004年度に定員削減を提案し、学生確保策として授業料を下げることを、それが経営を困難にするのであれば、経理を公開して教職員の理解と協力を求めるべきことを提言した教員を教育現場から排除・差別する不当労働行為で応えた。強権で脅し、見せしめ効果で理事会の方針批判を封じる。そして国試不振・定員割れを教員の努力不足に帰すことで、自らの責任回避を意図している。自らを守ろうとして大学の生命が脅かされていることに思いを致さない。大学を立て直す方策も意思も今の理事会には見えない。

ではどうすればよいのか。薬学部教員会(200722日)で披瀝された教員の声を反映した施策を先ず実行することだ。1)授業料を下げる、2)学生定員を減らす、3)入試制度を正常化する。何れも理事会の責任が付随する。施策に合理性がなく、多くの人が納得していないままそれを強要・強制する体制では、組織は成り立たない。これを抜本的に改善することができないようであるならば、経営者としての資質がないことの証明ともなり、理事の総退陣は免れまい。「尊敬されるような人徳なしに人の上に立つことは不可能である」ことも付け加えたい。孔子学院を保有している本学ならば、なおさらである。


団交報告

20081119日(水)に第4回の団交が開かれた。団交申込書(組合ニュース前号)記載の通り、4月に提出済みの「2008年度教職員組合要求事項」、給与改定案作成の進捗状況について文書回答を要求したが、今回も全く応じなかった。下記の2つのテーマにしぼり、口頭説明のみがあった。中川専務理事が理事長の代理、薬局問題については学長の代理で出席した。


1)薬局出向問題

1010日の「懇談会」で、理事会決定事項として、よりによって理事2人が「研修である」、「研修ではない、出向だ」と対立した説明をした。今回の団交では、中川専務理事が「研修」であると言い、さらに「懇談会での説明は趣旨が違う」、「出向は取り消す」と、「理事会決定事項」として伝えられた内容を否定した。

理事会が統一見解を持たず、しかもトップダウンでバラバラの見解を伝達してくる。これでは教職員は職務に支障をきたすのは当然である。懇談会での不安、疑問、怒りは、起こるべくして起こった反応である。教職員の身分・労働条件に直接関わり、教育への支障が心配される重要な事項にもかかわらず学長は出席せず、専務理事は、「説明会はみっともないことだったので、再度河島理事と学長に説明してもらう」と言うだけで、「研修」の詳細な実態は、既に開局1週間前に迫った今日も明らかにされていない。

薬局開局ありきの人員確保が先で、「研修」は後付けの理由であることは誰の目にも明らかである。今回、中川専務理事は「強制ではない。嫌々行ってもらうことはできない」と発言したが、報復のハラスメントが常態化し、理事会が統一見解を持たない中で、果たしてそれが守られるのか、甚だ疑問である。教員の希望が生かされ、拒否ができるよう、組合は、近く開かれるだろう説明会の結果を踏まえて対応する。


2)賞与問題

中川専務理事は賞与について具体的な回答をしなかった。大学側は以下のような姿勢であった――将来のことを考えて組合の要求はのめない。成果が達成されていないので賞与は出せない。前回と同様な特例措置になる。具体的な提示の準備はできていない。――

組合は、夏の賞与が暫定支給であって、交渉が継続していることを確認し、冬期の賞与と共に、再度団交を開いて交渉することを要求した。これまでのような組合無視の妥結前支給をしないよう確認を求めた。これに対して、中川専務理事は「しないように努力します」と答えた。

「将来のことを考えて」は理事会のいつもの決まり文句である。将来のことを考えるのは当たり前である。しかし、理事会は具体的な将来計画を示したことはない。財務内容の詳細も秘匿したままである。上述の無試験入学制度は将来を考えて導入したとは思えない。この主張には根拠も説得力もない。

教職員を悲惨な経済状況に放置し、心身ともに疲弊させてしまっては教育の効果は上がるはずもない。将来を考えながら、現状を改善し、働く意欲を引き出し、教育の向上を考えるのが経営者の責務であり能力である。その努力も知恵もなく、「将来々々」と繰り返すのみで、一向に改善策が打ち出せないのでは経営者とは言えない。


次回団交は1127日(木)18:00からです。(1101P