北陸大学教職員組合ニュース第123号(1998.7.27発行)

 

「北陸大学訴訟」裁判のゆくえ

 

 学長・学部長地位不存在の確認などを訴えた、いわゆる「北陸大学訴訟」裁判は、先日、原告側の土屋 隆本学名誉教授(教職員組合前執行委員長)の証人尋問を終了し、一段落しました。これについて傍聴者から寄せられたメモに基づいて概要をお知らせします。

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土屋 隆名誉教授(前執行委員長)の証人尋問 終わる

 

 平成10年6月5日、学長地位不存在確認訴訟の第7回口頭弁論が金沢地裁において開かれ、原告教授側証人として土屋 隆本学名誉教授が出廷された。

 土屋氏は、この証人尋問の中で、本学の教員採用に係る規程の制定改廃の経緯、また開学以来の学長、学部長の選考方法とその変遷、および歴代役職者の選出経緯等について詳細に証言された。

 例えば、昭和57年の教授会が行った学長選考規程制定に向けた一連の審議などに関する証言では、当時の教授達が自分たち教学の代表者を選ぶために、真摯な議論を交わして策定された規程が、わずか1回の実施を見た後、法人側の独断専行によって無残にも踏みにじられていった過程が赤裸々に語られた。そして、その証言から、創設時より本学の発展に尽力された先生方の努力の賜物とも言うべき諸規程が、昭和60年代以降なし崩し的に改廃され、法学部開設の直前頃までに教学の自主が失われたことが明らかとなったのである。

 土屋氏は、このような規程改定の果てにある現下の状況を痛烈に批判された。すなわち、本件訴訟提起に至る経緯として、現北元理事長の就任以来、労働環境、教育環境が著しく悪化し、教学の意向が理事者に全く伝わらないといった弊害が顕在化し、学長・学部長の任命制の弊害が目立つようになったこと、前理事長への3億円の退職金など大学私物化が目に余るようになったことなどを例示し、これに対処すべく、教職員組合や有志の会が結成されたことを証言された。平成8年春、多数の教員による学長・学部長の公選を求める要望書提出とそれに対する理事者や久野学長(当時)の約束、そして抜き打ち的に発表された衞藤瀋吉氏次期学長独断選任といった忌まわしい過去が、法廷という公開の場で語られたのである。

 約2時間にわたる証言を通じ、土屋氏は、裁判に訴えた内容の事実関係を明らかにでき、現下の諸問題の背景を語ることができる人物は北元理事長一人であって、同人の証人尋問はぜひ必要であると強く訴えられた。

 7月3日には、被告法人側からの土屋氏に対する反対尋問が行われた。

 尋問に先立ち、原告教授側が提出した一部原告に関する訴えの取下げに対し、被告代理人は「不同意」であることを述べた。この取下げは、一部の原告が退職によって教授の地位を離れたため、原告の資格を失うという当然の事態を書式によって上申したものであるが、被告法人側は、これすら同意しないと言い張ったのである。この主張に対し、渡辺裁判長は「異例ですね。」と発言し、被告代理人は「大学(法人)の方針です。」と答えた。

 この被告の態度は大いに問題である。訴訟手続上、当然の行為であっても同意しないということ、それが本学法人の方針であるということは、要するに、教員の声は一切聞かないというこれまでの姿勢に、毫も変わりがないということを意味している。

 このように異様というか、裁判長以下全員が首を傾げるような主張の後、被告側の反対尋問が始まった。被告代理人は、過去のいわゆるA班B班の対立が深刻化したために、理事会が公選制を停止したという論を構成して、土屋氏に執拗に同意を迫ったが、土屋氏は二班の対立そのものの解釈に異論を述べられ、被告の論拠を否定された。

 次いで被告代理人は、いわゆるA班から役職者が選ばれていた時代には、同班によって人事が独占されていたが、任命制に移行しB班から役職者が出るようになってからは、均衡人事が行われるようになったと述べ、選挙制の弊害による対立を避けて法人は民主的に運営しようとしたと主張した。しかし、これも土屋氏は否定された。土屋氏は、本裁判の論点になっている現下の人事の進め方を見れば、到底民主的とは言えないし、学内の混乱や対立は以前より激化していると述べた。ついに被告側は、問題が生じたのは久野栄進氏が学長に就任した後であることを土屋氏に確認させ、一切の責任を久野氏に負わせる戦術に出たのである。

 被告側は、薬学部の教授採用問題についても尋問を行ったが、被告代理人は大学の実態を知らぬ素人であることを露呈するだけであった。本学薬学部は大学院博士課程を有するにもかかわらず、大学院の担当を前提としない教授人事がありうる、と主張したのである。土屋氏は、薬学部教授会ではそのような前提では審議されなかったし、常識的に考えても大学院を担当する資格がない人を新設講座の教授候補にはしないと述べた。被告代理人(弁護士)の発言は、あくまでも被告である法人理事会や理事長の発言と同等である。よって、このような理論を展開するのは、彼ら理事会が大学というものを知らないのか、それとも、大学を発展させることより、自らの利益優先のためなのか、理解しがたいことである。

 続いて原告側代理人から再度の尋問が行われた。土屋氏は、前回の主尋問のときと同様、北元理事長本人の口から、規程改廃の理由などを聞きたいと述べられた。

 尋問が終わって、法廷では今後の進行について協議されたが、被告代理人は、突如、久野前学長を被告側証人に申請すると述べた。「本人の同意はまだ得ていないが」との前提が付されたが、裁判長はこれを了承した。被告側は一体何を久野氏に語らせようというのか。

 閉廷後、原告教授らとその代理人は、被告法人側の対応を待ちつつ、北元理事長の証人申請を重ねて強く要望することを決定した。本学の諸問題の根源を明らかにすることなくして、裁判は終了しないのである。 次回裁判(証人尋問予定)は、9月25日に決定された。

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理事会は、問題の本質を見ることもせず、文部省の指導にも全く反省していないのである。