(平成13年1月25日号 週刊新潮)


「刀で脅し」学長候補を追放した北陸大の「ボス」


 日本刀で脅しつけるとはヤクザ顔負け。それが大学の理事長だというのだから呆れるではないか。脅されたのは、北陸大学(石川県金沢市)の元法学部長。金沢地裁に慰謝料請求の民事訴訟を起したが、背景には、北元喜朗理事長(51)の大学私物化が。


「学部長を辞めるなら教授も辞めろ、と脅されたんです」 そう訴えるのは、北陸大学元法学部長の初谷良彦氏(59)である。
 事件は昨年9月に遡る。
「突然、理事長室に呼ばれたのですが、北元理事長が険しい顔で"いいものを見せてやる"と言って、秘書課長に日本刀を持ってこさせ、刀を抜くと"これでおれに悪意を持って攻めてくる奴らをぶった切るんだ"と言われたんです。ちょうど私の喉のほとんど数センチのところに切っ先を突き付けて、"これはよく切れる。触るだけで切れる"と言い、今度は私にその刀を持たせたんですよ。あまりの重さにあわてて両手で持ちましたが、私は恐怖感でいっぱいでした」 散々脅かされた末に、初谷氏は教授も辞めるように迫られたというのである。
 名古屋芸術大学教授だった初谷氏は、平成4年、北陸大学法学部の開設に伴い教授に招かれた。その後法学部長に就任。が、家庭の事情で法学部長の職を続けることが困難になったことから、同職の辞職を申し出たという。
 が、脅迫まがいの目にあったことから、初谷氏は警察に相談した。これに対し、理事長側は、昨年12月に初谷氏の退職を決定。初谷氏は、地位保全の仮処分を金沢地裁に申請すると共に、脅迫による精神的苦痛を受けたとして損害賠償の民事訴訟を起したのである。
 北陸大学は昭和50年に開校された。後に元代議士秘書の北元喜雄氏が理事長に就任し、平成6年に長男の喜朗氏が世襲したが、「10人の理事で構成される理事会は、理事長のイエスマンばかり。北元理事長は、一見人当たりが良さそうですが、粗野な男で、忠誠を誓った職員だけを取り立てて、意に沿わない職員は怒鳴り上げるなど暴力的な行為に訴えるので、大学を去った職員は多い。いまや北元理事長の完全なワンマン体制になっています」 と、ある教員はいう。


 親の七光りで出世


 喜朗理事長は、大学卒業後、昭和49年から61年まで「親のコネ」で森首相の秘書を務め、北陸大学の職員になるや「親の七光りでトントン拍子に出世した」といわれている。
 教職員の人事は思うがまま。おまけに大学の資金をファミリー企業に流しているという疑惑も持たれている。
 こうした事態に、平成7年に有志が教職員組合を結成。翌年、教職員130名の連名で、大学運営の正常化を求める上申書を文部省に提出したが、「多額の負債を抱えたファミリー企業が所有する土地を大学が買い上げたり、私物化の例をあげればキリがない。しかし文部省の行政指導が入っても、理事長はまったく聞く耳を持ちません」(大学関係者) 教職員組合と理事長との対立は続いたまま。
そんな中で"日本刀事件"が起ったが、これには伏線がある。
 きっかけは、平成10年に行われた学長選挙。理事長側が推す現職に対して、教職員組合などが初谷氏を擁立。結果は、初谷氏が7割の得票を得たが、猛烈な引き降ろし工作に遭ったという。
「理事長はいきなり私に向かって、"あなたは恩知らずだ"と怒鳴ったんです。そして、"あなたを研究者として抹殺してやる。学者生命をまっとうしたかったら降りろ"とまで言われたんです」(初谷氏) 結局、初谷氏は辞退せざるを得なかったが、理事長にとっては目障りな存在だったのである。当の北元理事長は、「脅迫する理由がない。刀は人間国宝が作ったもので"不動心"の銘が入っており、それを見せるために抜いてみせた。独裁体制をしいているつもりはない」 というが、こんな無茶苦茶な大学に4億円の補助金が出ているとは驚きだ。


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