(平成9年2月28日 週刊朝日 巻頭グラビア)

 

北国生まれも耐えられない 北陸大学、なんとも寒いお家騒動

学長人事をめぐり教授会と理事会が「家庭内離婚」?

北陸大学、といっても北陸地方以外の人間にはなじみが薄いだろう。私立北陸大学は金沢市にある。

1975年に開学、薬学、法学、外国語の3学部を持つ。学生数は約4000人。

この大学がいま、「次期学長」をめぐりモメている。

理事長側は昨年8月、「これからは特色のある大学にしなければ生き残れない」という理由で、亜細亜大学時代に「一芸一能入試制度」や「単位認定留学制度」などの斬新な教育

改革を行って話題となった国際政治学者、衛藤瀋吉氏(73)の学長就任を発表した。

ところが、教授側の大半がこの決定に反発。「学長選任は学校教育法第59条に定める重要事項。教授会を経ない選任は違法である」として、6日までに衛藤氏の学長任命の禁止を求める仮処分申請を金沢地裁に提出。公選制を求める教員たちが独自の選挙規定を設け、自主投票を行う動きに出た。

端から見れば2人の「学長」が誕生しそうなこの事態。理事会側は自主選挙を中止するよう、各教員に内容証明を送り、「選挙参加者は懲戒免職にする」と厳しい姿勢を見せるが、教員の1人はいう。「学内では理事会批判のビラをまいていないか、警備員が目を光らす。学問の府なのに、こんな話はありませんよね」

混乱の背景には教員たちの、北元喜雄・前理事長と息子の喜朗・現理事長の「北元ファミリ−支配」への積年の不満があるようだ。前理事長の喜雄氏は初代理事長の林屋亀次郎元参議院議員(故人)の秘書をつとめ、金沢市長選挙にも出馬した人物。自主選挙推進派の教員は、「理事長に就任するや理事会のメンバ−をイエスマンで固め、『あらゆる批判は許さない』ワンマン運営を始めた。学長の公選制も廃止した。理事会を批判して、実質上辞めさせられた教員もいる。一方で、レベルを疑うような教員を勝手にスカウトしてきたりした」という。

「ワンマン体質」は代議士秘書から転身した息子の喜朗・現理事長になっても変わらなかったようだ。今回の「衛藤学長」決定についても、教職員たちに詳しい説明がなされなかったというが、教員側もこれまで、問題視している学長の選考方法に表立った反発の動きはなかった。

実際、自主選挙推進派のなかにも、「現在の学長選考のシステムはおかしいが、全国的知名度がある衛藤氏は歓迎する」という声も少なくない。つまり、この騒動、どんな人物がふさわしいか、将来どんな大学像を目指すのか、そのためにどんな改革をすべきか、といった本質的な議論は、双方の間でほとんど行われてこなかったようなのである。

で、すっかり中ぶらりんの形になってしまったのが衛藤氏だ。「大学の改革こそが教育の発展につながる」が持論の衛藤氏にとって、今回の学長就任は、亜細亜大学に次ぐ格好の「改革実践」の場となるはずだった。その衛藤氏は困惑した様子でこう語った。

「私としては、理事会から正式な手続きで選任されたとの説明を受けている以上、引き受ける決意に変わりはない。でも、いまはまだ部外者。しばらく様子を見るというしかありません」

北陸大学のほんとうの改革は、この騒動が終わってから始まるのかもしれない。